螺旋状に突っ走って死にたいプロフィール
2012/10/26 Fri 10:46
髑髏を枕に眠る


話題:怖い話


この時期になると、一人の女の子を思い出す

猫のような女の子


もしかしたらあれが初恋だったのかもしれない



猫が虚空を見つめる時がある

猫にしか見えない何かが見えているのだろうか


その女の子も時々虚空を見つめていた


初恋は実らないというのは定説で、俺にとっても真実だった

その女の子は俺が恋心を抱いた何年か後に消えてしまったのだから




その女の子は白く細かった

吊り上がった目をしていて、ニヤニヤと笑うのだ


年頃の女の子というのは所謂オカルトというものに傾倒しやすい

占いとか儀式とかコックリさんみたいな都市伝説とか


俺の学校でもその類の「それ」が流行った

「それ」は口にするのも文字にするのも恐ろしい

コックリさんのようなものを想像して欲しい


「それ」のせいで悲鳴をあげて泣き出す者、泡をふいてぶっ倒れる者
パニックになり転んで怪我をする者などが続出した


学校側も子供のただの遊びと容認できなくなるほどの事態になり、「それ」を禁じた

担任の教師はHRで言った
「全てはただの噂で出まかせです」

俺達生徒はそれで安心した

集団ヒステリーのようなものだったのだろう


全ての生徒が「それ」を恐れていたわけではない

興味半分やおもしろ半分の人間もいたし、全く信じていない人間もいた
信じきっている人間もいたが

恐怖は伝染する

そして語られる噂は真実が僅かでも混入すれば、真実味を帯びる

怖いのは「それ」自体ではなく、「それ」に支配される人間の心だろう

成人していない人間の心は脆い

「それ」は今でもその学校の七不思議の一つとして存在しているらしい

いつの時代も変わらないものだ


大人の介入は子供達のちゃちな世界観をぶち壊し、「それ」は四散した

そこからオカルトにハマった女子グループがこっそり似たようなことをしていたが、他の人間はすでに違うものに興味を持っていた

学校の行事というのは個人的にめんどくさいものだが、一時的でも集団で何かをするという安心感、連帯感、一体感を味わうことは「それ」の恐怖を掻き消すには十分だった



そんな中、その女の子は虚空を見つめていた


「それ」が流行っていたときも、女の子はその愚かな集団には加わらなかった

学校行事にも一歩距離をおいていた

それが彼女の位置だった


いじめられているわけではないが、彼女は確実に浮いていて

そこが好きだった

親しい友達がいないわけではない

ニヤニヤ笑いで友達と話していたいし、俺とも話した

放課後にどうでもいい話をしていて、「付き合ってるの?」と周りから冷やかされたりもした

彼女はニヤニヤしながら否定したが


たまに虚空を見つめる彼女に思い切って質問したことがある

「何か見えているの?」




ただ考えごとをする癖だったのかもしれないが、その当時の俺も「それ」に毒されていた
むしろ中心となっていたくらいだった

だから馬鹿丸出しで彼女に「何かが見えている」という前提で質問をした


ちなみに彼女とは一度も「それ」について語り合ったことがない

馬鹿は馬鹿なりに敏感で、彼女に「それ」の類の話はしなかったのだ

だからこそ、この質問はマヌケそのものだった


彼女は一瞬無表情になったがいつものニヤニヤ笑いに戻りこう言った

「あなた達には見えないものかな」


これは拒絶に等しかった


「あなた達」と確かに彼女は口にした

彼女に俺は見限られたのだろう

線引きをされた

「それ」のようなものに躍らされている人間である「あなた達」とは見えているものが違う

そんな考えが言葉の端から零れていた

それをなんとなく察した俺は彼女から距離を置くしかなく、俺の初恋は終わりを告げたのだ


卒業して彼女を見かけたことがあった

彼女はさらに白く細くなり

手首には切り傷があった


目は虚ろであの時彼女が見ていた虚空そのものだった


そして何年かして彼女は消えた

この世界から消えたのかどうかはわからない

田舎の情報網はすごい

母親から彼女の失踪を聞かされたとき
衝撃より諦念が強かった

そう彼女は初めから俺とは、俺達とは違う世界が見えていたのだ

彼女は自分の世界に帰って行った

ただそれだけなのだ


白くて細い猫のような女の子

虚空を見つめる女の子


虚空に消えた女の子




おしまい





―――――――――――――


あまり怖い話が書けなかった

前回の怖い話もそうだけど実話を元にしたフィクションなので本気にしないでね


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