背後を何かが横切ったような気配がした。
小十郎は手にした筆を丁寧に硯へ下ろし、アタリをつけた空虚へと文鎮を振りかぶり、乱れの無い綺麗なフォームでそれを投げる。
「ぎゃん!!!」
ごすっと言う確かな手応えの後、すぐさま何もない場所が揺らぎ人影らしきものがぼとりと落ちた。
「わりぃな、魚買ってきてくれ來海」
「ねぇ、何かさせようとする度に通りすがりの俺に物ぶん投げて実体化させるの止めてくんない小十郎。痛いの。俺だって痛いの。つうか魚ぐらい自分で買ってき……なんでもないです。行ってきます」
小十郎は凝り固まった肩をぐるぐる回し、文鎮はやり過ぎたか、仕方ないから大きな魚は來海に譲ってやろう、と。
晩の支度をするために立ち上がった。
片倉家は今日も平和だった。
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投げた物に撃ち落とされる幽霊とか面白くないですか。