2011-3-17 23:54
ある日の昼下がり。
もう3月も半ばだというのに萬天は雪がちらつく曇り空だった。
「はぁ、もう春の筈じゃないのか…?アイルランドでももう少し暖かいぞ…」
もうそろそろ片そうかと思っていたコタツに潜り込んで帷ははあっとため息をついた。
「暦は当てにならないなぁ…」
そう呟きながらコタツのみかんに手を伸ばして皮を剥いていると玄関からチャイムの音。
誰だろうと思って席を立つと、ドタドタと入ってくる音。
ああ、人がまだ出ていないのに無遠慮に入ってくるこの人は。
「なんだよセンセー、いるなら返事ぐらいしろよ。」
「お前が出る前に入ってきたんだろうが。で、何の様だ?」
「あ、そうそう。センセー、ちょっと台所借りるぜー。」
「は?何でだ?何か作るのか?それなら俺がやろうか?」
「いーからいーから、センセーはコタツで待ってろって」
そう言われてしまうとコタツで待っているしかない。
さっき剥きかけだったみかんを再び剥いていると、台所からガシャーン!とか雪見の「うぉぉっ!?」とか、どう考えても料理をしてるとは思えない音が聞こえてくる。
「雪見…やっぱり俺がやろうか…?」
そう台所の入り口から雪見に声をかけるが
「いや!大丈夫!これはオレがやんなきゃいけないから!そっちで待ってろって!」
そう言われてコタツに戻ったが、待つのがハラハラする。
一体あいつは何をしているのか…
しばらくして雪見が更に何かを乗せて反ってきた。
「ふ〜、お待たせしました、っと。」
そう言ってテーブルに置いたのは…
「これ…?」
「誕生日おめでとうセンセー。」
真っ白な生クリームと苺で飾られたケーキだった。
「いやぁ料理は人並みに出来るけど菓子ははじめて作ったぜ…難しいよなぁ…」
確かによく見たらデコレーションも上に乗ってる苺もバランスが悪い。
でも初めてのケーキにしては上手だった。
「いや、初めてにしては上手いと思うぞ?」
「そっかぁ?よし、じゃ火ぃ付けようぜ。」
そう言って雪見がロウソクに灯をともした。
「何か願い事しながら消すと叶うんだろ?何てお願いすんだ?」
そう尋ねる雪見に俺はそうだな…と少し考えて口を開いた。
「これから先も一緒に誕生日を祝えますように、かな。」
そう呟いて一気に火を吹き消した。
誕生日ケーキは不格好だったけど、味は美味しかった。
俺はケーキを口に運びながらお腹だけでなく心まで満たされていくのを感じた。
俺はこのケーキの味を一生忘れないだろうな。
そう思って窓の外を見ると雪はもう止んで、雲の切れ間から暖かな春の陽射しが射し込んでいた。
ーFinー