事後っぽい。
カションカション。
先輩がジッポいじってる。
疲れた、ほんとに疲れた。喉いてーし腰いてーし眠い。ついさっきまで俺の上に乗っかってた先輩はもう隣で煙草吸いながらジッポいじってる。もう先輩の禁煙は諦めた。無理だこいつは酸素と一緒にニコチン吸わないとダメなんだ。あーあ、こうして一緒にいる俺の命も擦り減ってゆくのか…。
てかおい、俺まだ息整ってねーんすよ、はぁはぁいってんだよわかんねーのか労われバカヤロー。それに悪気はねーんだろけど事後に煙草吸うのは女子からあんま良く思われねーんだぞ、俺女子じゃねーけど。
先輩は相変わらずカションカションうるさい。
息整えるために深く吸って、はぁーってゆっくり出す。それが先輩の、煙草の煙吐き出すタイミングとかぶった。チラ見したら気付いた先輩に微笑まれて、いたたまれなくなってついぷいっと目線を外してしまった。こっち見んな恥ずかしい。
先輩はジッポを灰皿の横に置いて、汗でおでこにはりついた前髪を左手で撫でてよけてくれた。乱れた髪も整えてくれてる。優しく撫でてくれるから、やっと労わってくれんのかって思って先輩のほう見ると、
「お前上目遣いで誘ってんのー?かわいー。もっかいヤる?」
んなわけねーだろもうヤんねーよ!!あんたが肘ついて上半身起きてっから上目遣いになんのはしょーがねーだろうが!
「…俺思うんですけど、」
「ん?…どしたぁ?」
先輩の言葉はシラけた目だけしてスルーしてやった。先輩から天井に目を移し仰向けのまんまで俺は話し始める。学校、バイト、いろんな人と会った日は余計な事を考えてしまう。
俺が思ったより深刻な顔してたのか、先輩が心配そうに聞き返してきた。なんか言い辛くなっちゃったなー…
「…俺、何で先輩なんだろーと思って」
「んあ?」
向いてみたらぽかんって顔。おっと、ベッドで煙草落とさないでよ?危ない危ない。てかそんな顔してもかっけーんすね、くそぅ、これだからイケメンは。
もういいや、続けちゃえ。
「女の子じゃなくてもさ、たぶん、きっと、先輩よりいい人がね、いるはずだって思うわけですよ、俺は」
「…ぇ、ちょっ…と、まってよ、」
別れ話?って聞きながら覗き込んできた。あ、やべ、機嫌損ねたかな。右手を伸ばして、眉間のしわをグリグリしてやりながら続ける。別れ話なわけねーっすよ。ばかやろ。
「おこんないでくださいよ。いやね、誰かを好きって、こんなもんなんかなーって」
「…はぁー?」
素っ頓狂ってこういう事言うのかな。そんなこわい顔しなくてもいーっしょー。俺の言い方も良くなかったかもしんないけど、でも本当に何て言えばいいかわかんないんスもん。
「いや、悪い意味じゃなくてさあ」
「今日お前意味わかんねえ」
「うーん…俺もわかんねっす」
「てか、それを悪い意味じゃなくどう取れっつーのよ」
「いや、うーん…」
ほんとに悪い意味じゃないんだけどなあ。こういうの、何ていうかわかんねー。しっくりくる言葉があるはずなんだけど
「だからさ…例えば先輩と比べて、こいついい奴だなって感じる人絶対いるじゃないっすか。でも実際そいつのことは別に好きじゃないんです。いい奴ってだけで。いや、いい奴って意味では好きだけど」
「ぅん…?」
眉間に当ててた手を左手で取られて、指を絡められる。あ、煙草も消した。真剣にきいてくれてんだ。うーん?どう言えばいんだ。少ない引き出しから頑張って言葉を出していく。あー、俺まじ国語苦手。
…って顔近っ。鼻くっつきそ。はず。なんかもーまた押し倒されてるみてーになってんだけど、先輩の顔好きだしまあいいや。
「……何て言うか、人を好きになったらそいつ意外に考えられないっつーか、何においてもそいつを超えるやつはいなくなるんだって俺は思ってたけど、違うんすよ」
まだ頭に「?」が浮かんでるようで、難しい顔しながら首を傾げる姿がちょっとだけかわいい。はいはい、美形は得ですね。
「いい奴とかおもしろいとか、男前とかかわいいとか、そういう意味で先輩を超えるやつはやっぱいるんすよ。
でもさ、付き合うとかさ、その…好き、だなーとか考える、のは…先輩だけっていうか…」
そんな感じ…。
語尾になるにつれてたどたどしくなって、どんどん声が小さくなってしまう。目も泳いでたかも。言いながら途中で気づいたけど、これ普通に先輩が1番大好きだぞっつってるだけじゃん。やばい、めっちゃはずい、やばい、うおぉ…
顔隠してのたうちまわりたい気分になって目逸らしてたら、体制そのまま上から覆いかぶさるようにぎゅうって抱きつかれた。
「…なぁお前さ、かーなり恥ずい事言ってるっていう自覚はあるのかい?」
「……」
もー恥ずかしくて何も言えない。俺の肩口で頭ぐりぐりしてくる先輩に対して、うっさいわかってるよ馬鹿野郎って意味も込めて俺もぎゅうってし返した。
「てか、俺と他を比べてる時点で、お前は俺のこと大好きなんじゃん?それでいいじゃん?」
「いや、そ…うーん、…まあ、そうか。」
そうか。そうだな。もうそれでいいか。ぐだぐだ考えてるけど、結局好きってだけで…うん、それだけなんだ。しっくりきた。好き。これか。うん。
先輩はいつも俺の言いたいこと分かってくれる。そーゆーとこもやっぱなぁ、好きだなぁ。これは言ってやんないけどさ。
ふう、目を閉じながら息を吐く。
あー、スッキリしたら睡魔が舞い戻ってきた。もう目が開かない、
力もぬけてきた…うぉ、ふわふわする…あ、だめだ…これはねる、ねる、ねてしまう…
せんぱい、おやすみ
あしたもまたそばにいてよ、せんぱい
「そうかって…何だ今日めっちゃ素直じゃーん!どしたー!?デレ期かーーー!??やっぱもっかいヤろっかーーー!!?久々に素直に喘いでるお前が見t「…ぐぅ」」
「あれっ?」
大好きな曲を私なりに解釈した結果です。凄いかわいらしくて、こんな歌詞を書くこの人はツンデレの極みだ…と思った。
明日もまた、そばにいてね。