スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

サクラサクココロ

「…………」

 この痛い沈黙はどうしたものか。
 不良やんちゃ少年セウの思考は少し前からそればかりに捕われている。
 街中央にある寂れた噴水にセウとセウの傍らに黒い髪の、少年に見間違うばかりの少女が二人だけで座っていた――否、セウの友人(この場合は悪友になるが)ルーインズ、フォーレ、テイルの三人の友情により念入りにそうセッティングされた。
 三人にこの想いがばれて以降、何かしらあれば寄ってたかり、余計なお節介を焼く。今回もその一つだ。

(つかアイツら、ぜってぇ楽しんでんな)

 恐らくどこかで隠れて見ているであろう友人たちに、静かに怒りを募らせる。噴水の縁に掛けた手がギリリと音を立てる。
 時間がやけに長く感じる。ちらりと横目で少女――カノンの様子を盗み見る。カノンはここに座っていた時から変わらず、特別感情の篭らない目で、しかし何かをしっかり見つめている。

(やっぱ、オレなんて眼中にねぇのかな)

 一人で舞い上がってバッカみて。セウは自分自身に呆れて深々と大きなため息をもらす。
 初めこそ二人きりのシチュエーションにそわそわしていたセウだが、時間が経つにつれて沈黙が目立ってくると冷静になり、カノンの様子を伺い見てばかりいる。
 カノンもカノンで何も話さない、何も尋ねてこないものだからセウはますます不安になった。

(この距離も証拠ってか)

 二人分程空いた距離に寂しげな思いを抱えて、込み上げた切ない気持ちをため息に隠す。

「なぁ、カノン」
「ん?」

 呼びかけには普通に応じ、カノンはセウを見た。呼び止めたものの、何を言ってよいのかわからず、再び沈黙がカノンとセウの間を抜ける。
 カノンが、どうした? 少し首を傾げ視線で訴える。
 それを見たセウは、大きく目を見開いた後、真っ赤な顔をして顔を背けた。








(よく分かった。好きな女の何気ない可愛い仕草が危ないってことに……!)
(オレ、惚れ直しかも!)


俺の奇跡の力


 俺には奇跡を呼ぶ力がある。いわゆる、超能力ってやつだ。
 だけどアイツは、それは単なる驕りと自負でしかないという。
 アイツはどんなに何を言っても、何を見せても手品のような感覚で、種があるんだと言い張る。

 前までは俺も意地になって、俺の力は本物だと言い返していたが、最近はアイツの言った言葉を飲み込み始めた。

 どんなに頑張っても、一つだけ、本当にたった一つだけ起こせない奇跡があったから――



俺の奇跡の力






「ねぇ、そう言えばさ」

 アイツがふと思い出したように口を開いた。
 昼休みの中庭。
 特定のいつものベンチで、俺、神流城 晴一とアイツ――水綺 瑠衣華は他二人を従えて、弁当を食べていた。
 まったくもって邪魔でしかないこの二人は、瑠衣華と同じクラスの柳 隆哉と南川 彩。

 柳と南川はずっと一緒らしく、小中はもちろん高校まで一緒で、なおかつ行動も共にしているらしい。そう言えば、こいつら二人が別々にいるところを見たことがない。
 だが話に聞く限りじゃ、付き合ってるわけでもないようだ。南川が頑張っているみたいたが。

 って、そうじゃなくて。
 俺の幸せの時間を邪魔するなと言いたい。

「なんだ?」
「アンタさ、あの手品やめちゃったの?」
「だから手品じゃねぇっつの」

 俺には奇跡の力がある。
 傍からみたら、確かに手品のように見えるが、しかし数をこなせばその手品はたちまち奇跡の力だ。
 この17年間、俺はその奇跡を幾度となく使ってきた。
 ただ、一つを除いては。

「手品、か」

 柳が、感心したように呟いた。続いて、南川が

「ラッキーボーイ?」

 頭をかしげて言う。

「手品でもねぇし、たまたま成功してたわけでもない」

 しつこい。
 俺の力は本当なんだっての。 そりゃあ、自分で起こしたい奇跡は今んとこ成功していないわけだが。
 少しふてくされて、乱暴におかずを口に入れると瑠衣華がクスクスと笑い、子どもなんだから、と呟いた。
 うっせほっとけと胸中で悪態ついて、むくれながら食べ続ける。
 未だ俺の起こしたい奇跡は起きない。進展もない。
 だから決意した。俺は俺の力で奇跡を掴み取る。

「絶対に認めさせてやるからな!」
「はい?」

 唐突に宣言された瑠衣華は、箸を口に含みながらポカンとした顔を見せた。







(俺に起こせない奇跡はない!)
(唯一『恋』を『愛』に変える奇跡だけは除いて)


三人称・戦闘シーン練習1


 ひんやりしたと空気の冷たさに、思わず身を硬くした。
 陽の射さぬ森だけに、辺りは薄暗く、先の道にいたっては既に暗黒に沈んでいる。

 ――まずい。

 反射的に本能が叫ぶ。
 サクッと、一歩足を踏み出し草を踏む。瞬間、四方から殺気が向けられた。
 闇に沈んだ木々の間から、人ではない何かの殺気が、こちらを捕らえる。
 低く獰猛な唸り声と、地面を突進む、土分けの音が澄した耳に届く。
 敵は獣と巨大なイモムシといったところか。だが、油断は出来ない。

 囲まれたであろう、四方の木々の影に鋭い視線を向けて、臨戦の態勢をとる。
 カノンは油断なく視線を巡らせながら、左腰に提げた剣へ手をかける。と、唐突に足元の地面が盛り上がり、人外の力で空中へ放り出される。

「ちっ」

 下か、と舌打ちし、崩れた態勢を空中で立て直し、早口で詠唱をすると、盛り上がった地面へ手をかざす。手のひらから少し離れた空間に火の弾が現れ、それは徐々に肥大し形を成す。

「消し炭になれ」

 火球を出現させた手のひらに意識を集中させると、狙いを定め、勢い良く地中に隠れた魔物へ放つ。
 カノンの放った火球は盛り上がったままの地面に着弾し、爆発する。熱風が細かい石と炎を巻き上げ、辺りの空気と雰囲気を一転させる。

 ――戦闘の合図。
 そう言わんばかりに、未行動であった三方に残った魔物が一斉に動き出す。

 ギィィと耳障りな声が聞こえ、爆発したばかりの下を見やれば大きく抉り取られた地面に、ミミズ型の魔物の身体がむき出しに転がっていた。

(威力が弱かったか)

 まだ鳴き声を上げられるほどの余力を残こしたことに、自分の爪の甘さを認識し、小さく嘆息した。
 仲間を呼ばれては厄介だと考え、止どめを刺すため再び詠唱を始める。しかし、最後の言葉を紡ごうとした瞬間、左腕に走った痛みに詠唱は中断された。
 素早く視線を走らせ、腕を切り裂いた軌跡を目で追えば、暗闇でも微かに輝く青銀の毛並み。
 ウルフ。狼から派生した魔物は、野性的に牙をむき出し、伸びた足の爪で地面を引っ掻く。
 獣としてのその瞳は、カノンを確実に獲物として捕らえていた。




ロマンチックにデスティニー!

 これはそう、強いて言うならば運命!
 それ以外に考えられない。いや、考えたくないの。だって、単なる偶然だなんてそんなの、寂し過ぎるもの。



ロマンチックにデスティニー





「おっはよー!」

 あたしの運命とは、毎朝この時間から始まる。

「朝っぱらからうるせー」

 玄関先で、定時通り顔を合わせたあたしたちは、毎日恒例の挨拶を交わす。
 まだ寝ぼけ眼で頭をボサボサ掻くアイツは、至って普通の不機嫌そうな声で返してくる。

 これが、あたしとアイツのいつも通りのやりとりだ。これが変わることはないだろうし、変わりたくもない。
 どんなことがあっても、アイツは普通でいてくれるはずだ。
 ……それが、あたしにはもどかしいけれど。

「低血圧も大変だね」
「俺は認めねぇ」
「朝寝坊しても、低血圧ですぅーって言えば許してくれるかもよ?」
「遅刻は遅刻で変わらないだろ」
「ま、それもそうだねー」

 まったくもって正論だ、と頷けば、無言で後ろ頭を小突かれた。

 まだまだ、運命は終わらない。
 アイツと同じ学年はもちろん、同じクラスで席は隣り。列になれば、いつも近く。
 これを運命と言わずになんと言おう!

「……お前、何一人でガッツポーズしてるんだ?」

「え、うそ、そんなことやってた?」

 隣りの席のアイツが、欠伸をかみ殺しながら、訝しげな目で見てくる。
 視線を自分の手元に向ければ、確かに、しっかり脇で拳を握っていた。
 ……しまった。心の中で力説するあまり、無意識にやっていた。

 恥ずかしさとそれをごまかすように、パタパタと手を降ってあたしは苦笑した。しかし、未だにアイツは怪しんだ目を向けたまま。

「朝から仲がよろしいですなー」

 不意に後ろから声をかけられて、振り向けば、手の甲にあごを乗っけながらニヤニヤ笑う女の子が一人。


「んなことねぇよ。いつも通りだ」
「へぇーそうですかぁー」

 わざとらしく語尾を伸ばして、意味ありげに目を細めてアイツを見る。

「小さい頃から一緒で、同じ学校で、同じクラスで隣り同士。素晴らしい運命の赤い糸だねぇー」
「ば、ばか! 気持ち悪いこと言うなよ」
「うわ! 気持ち悪いとか酷い!」
「ねぇー、ほんとに酷い男だねぇー。お姉さんが慰めてあげるからおいで」
「あー! うるさい! コイツとは単なる腐れ縁だっての!」

 おいでと言われたので素直に胸を借りて泣く振りをすれば、非難の集中にムキになって反論する。
 それにしても酷い。腐れ縁だなんて。
 もうちょっと、ロマンチックに思ってくれてもいいじゃない。

 ここまで一緒なんだもの。
 少しぐらい、運命の赤い糸で結ばれていると思い込んだって。
 神様は許してくれるでしょう?

 どうかどうか、運命の女神様。
 私に微笑んで下さいませ。

「腐れ縁だなんて酷いよ。きっと、運命の赤い糸で繋がってるの!」

 そう言ったら、驚いた顔をされて、アイツは赤い顔してそっぽを向いた。




ロマンチックにデスティニー!


(あれ、これって脈有り?)
(そういうことを平気で言えるお前が凄い)



とおいとおいきおく

 不思議な感覚に襲われて、思わず僕は立ち止まった。

「……?」

 空を仰いで、未だ尾を引くその感覚に眉をひそめる。

「どしたのー、シュード」

 僕の一歩後ろを歩いていたキアラが、横から顔を覗かせて、僕に訊く。

「なんだか、凄く難しい顔してるけど」

 キアラは、指を自分の眉間に当てて、僕と同じ顔をしようと、一生懸命眉を寄せる。
 恐らく僕は、そんな顔をしているのだろう。……そこまで間抜けな顔ではないだろうが。

「あ、今なんか失礼なこと思ったでしょ」

 何の電波を感じとったのか、或いは読心術でも備わっているのか、僕の胸中を当てたキアラは、不満そうに表情を変える。

「思ってません」
「嘘つきー。顔に図星ですーって書いてあるよ」
「書いてない」

 まったく、変なところは鋭いんだから。と、こっそりため息をついて前を見る。
 僕たちが遅れているのに気が付いたカノンさんが、立ち止まって待っている。

「ほら、キアラ。早く行かなきゃ」
「止まったのはシュードでしょー」

 あたしのせいじゃないよーと、ぶー垂れるキアラの小言を聞き流して、カノンさんに追い付く。カノンさんは、僕たちが小走りで行くと何も言わずまた前を向いて行ってしまった。
 剣を抜いて、余計な草を切り払い、僕たちが歩きやすいように道を作ってくれる。

「後でお礼、言わなきゃね」
「うん、別にって返されそうだけど」

 本人にとっては、なんでもないことなのだろうけど、僕たちにとっては小さな優しさだった。
 無口で無愛想で、多くを語らない人だから、行動で読み取るしかない。行動とかを見てると、本当は優しくて、お節介な人なんだと思う。

「そう言えばさ」

 カノンさんの背中を見つめて考えていた僕は、キアラの声で引き戻される。

「何?」
「さっき立ち止まって、何を見てたの?」
「特に何も無い。けど……」
「けど?」
「何か、変な感覚に襲われて」

 さっきの感覚を思い出して、もどかしくなる。
 あれは、一体なんだったんだ。

「変な感覚?」
「うん。どういう風に表現したらいいのか、分からないんだけど。そうだな……例えるなら、夢を見ていた感じ」
「夢? 歩きながら?」
「多分、そう。歩いてる感覚が、その時だけ無かったんだけど」

 いや、向こうで歩いていたと言うべきか。
 あれは、あの不思議な感覚は、キアラに引き戻された時と良く似ている。

「どんな夢だったの?」

 深い青色の大きな瞳を興味津津に輝かせて、キアラは尋ねてくる。

「質問攻めだね」
「だって興味あるんだもん。歩きながら夢見てるなんて」
「別に好きで見てたわけじゃないよ」
「はいはい。で、で? どんな夢?」
「えーとそうだな、それは」

 例えて言うならば、もう一つの世界にもう一人の自分。
 そこの世界では二人ぽっち。僕と、今より少し感情が豊かなカノンさんと。

「えー、あたしはー?」
「いや、それが……まったく存在して無かった」
「うわ酷い!」
「ほんとにねー」

 我が夢ながらそう思う。それに、何故カノンさんなのか。
 カノンさんは、ここに来て初めて会った人だ。夢にまで見るような、親しい仲ではない。

 二人ぽっちの世界……。
 なんて静かで、なんて寂しいのだろう。
 夢の中の僕も、カノンさんも、人の暖かさや騒がしさや、一緒にいてくれる安堵感を知らない。
 二人っきりで閉じこもったまま。もしかしたら、その時だけだったかもしれないけれど。

「そう考えると」
「ん? なぁに?」

 このかしましいキアラが一緒にいてくれて、良かったと思える。
 静かなのは好きだけど、寂しいのは嫌だな、なんて。

「なんでもない」


 きっと、まだ出会っていないだけ。
 夢の中の僕とカノンさん。
 二人に、暖かいものを教えてくれる人。

「なんでもないってねぇ!」
「怒る必要ないでしょ。ただ、そうだなぁ」
「なに」
「キアラがいて良かったってこと。それと、ありがとう」
「へっ?」

 訳が分からないという顔をして、キアラは間抜けな声をもらす。
 そんなキアラに笑いかけて、また広がってしまったカノンさんとの距離を縮めるため、小走りで追いかける。

 あぁ、そうだ。今度カノンさんに話し掛けてみよう。
 ありがとうって言うのとしばらく一緒にいてくれないかっていうお願いと。

「あ、ちょっと、シュード!」

 置いて行かれたキアラが、僕の名前を叫ぶ。
 一旦立ち止まって、振り向いてキアラを呼ぶ。
 キアラはその場で地団駄を踏んで怒りを現わした後、ポニーテールを揺らして走り出した。







シュード:15歳
髪:色素の薄い茶色。うなじが隠れる程度の長さ
瞳:明るい黄土色

考古学者見習いの少年。イギリス出身。
お人好し。人一倍興味心が強い。歳相応に子どもっぽければ、歳不相応に大人っぽい一面がある。

キアラ:15歳
髪:輝く金髪をポニーテールにしている
瞳:深い青

シュードと同じく考古学者見習い。イギリス出身。
かしましいの一言に尽きるが、愛嬌がある。歳相応に子ども。
シュード以上に物事に興味を示すかと思えば、興味がないものにはトコトン冷たい。
くるくる良く表情が変わる。

前の記事へ 次の記事へ