それは突如起きた戦いだった。本部司令室に入ってきた通信音声は憐鶴(れんかく)のもの。

「只今、裂鬼と交戦中。相手…かなり強い!」


司令室は騒然とした。メインモニターには憐鶴と裂鬼とおぼしき女性が映し出されている。2人の戦いは激しさを極めていた。

宇崎と復帰した鼎はモニターを見つめている。絶鬼の次のターゲットは憐鶴だったとは。手下がまだいたなんて。


「室長、指示は出した方がいいのか?このままだと敵の術中に嵌められてしまう!」
「憐鶴…あいついつの間に本部にいたのかよ。全然気づかなかった…」

「呑気にしている場合か!」
鼎、少しピリついている。


「少し落ち着け。憐鶴を救いたい気持ちはわかる。…もう少し冷静になれ」
「黙って指をくわえて見てろというのか!!」

鼎の感情が露になった。彼女の握り拳が震えている。何か言いたげだが、抑えているようにも見える。
鼎の顔は仮面で隠れているため、表情がない。彼女は司令室後方にいる宇崎を睨みつけるように見た。



都内某所では憐鶴vs裂鬼の戦いが激化。憐鶴は対怪人用鉈・九十九(つくも)を使い、斬るというか叩くような攻撃をしている。
裂鬼はというと鞭のような伸縮可能な武器を使い、憐鶴を痛めつけている。


「キャハハ!たーのしー♪泉憐鶴、あんたのその顔の包帯…剥いであげようか?さぞや素顔は化け物みたいになってんだろうねぇ。
絶鬼様がつけた爪痕は深いからなぁ」
「私はお前を倒しに来たんじゃない…」

「『絶鬼』を倒したければ私を倒しなさいよ」


裂鬼は強気だ。憐鶴は近接戦には強いが、中遠距離系の装備には弱い。
裂鬼の鞭に苦しめられる憐鶴。鞭はエネルギーを鞭化したものらしいが、攻略法がわからない…。


「どう、苦しいでしょ?」


裂鬼はじわじわと憐鶴を鞭で締め付ける。戦闘を楽しんでいるあたり、イカれているなこの女は…。



本部・司令室。鼎は憐鶴に呼び掛ける。


「憐鶴!応答しろ!憐鶴っ!!」

応答なし。モニターでは鞭に苦しめられている憐鶴の姿が。
憐鶴は裂鬼に聞こえないような声でようやく答える。


「あなたが呼び掛けたら生きてるの、悟られちゃうでしょうに」

「今はそれどころじゃないだろ!」
「…私をそんなにも救いたいんですか…。相容れないのに…」


憐鶴の声が弱くなった。ダメージがじわじわと効いてるんだ。


「…室長、私に鷹稜(たかかど)を使用する許可を下さい」
「戦闘目的じゃないなら使えるんだっけ」

「時間がないんだ!!不恰好だろうが敵に生存が悟られようがなんでもいい。彼女を…助けたいんだ…」

鼎はかなり感情的になっている。宇崎はモニターを凝視しながら答えた。


「行ってこい。御堂といちか、桐谷も出すから。彩音は救護要員で現場に出すよ。
鼎、戦闘目的以外で鷹稜を使えるのか?」
「やったことはないが…憐鶴の九十九と関係してるはず」


鼎は博打に出るのか!?憐鶴を助けるためだけに!?


司令室に御堂といちか、彩音が入ってきた。

「きりゅさんのサポートは任せてちょ!」
「おせっかいなのかわからんけど、付き合ってやるわ」

「私も行くから憐鶴さんの心配しないで」



都内某所。憐鶴は抵抗するも、もがき苦しんでいる。

裂鬼はそーっと近づき、憐鶴の顔の包帯をほどき始めた。


「あんたに最大級の屈辱を与えてあげるよ。死ぬのとどっちがいいかい?」
「やめて…!やめてよ!!それだけは…」

「最初の威勢…なくなっちゃったね。そりゃそうか〜。さすがの『闇の執行人』も弱点を突かれたらただの人間だもんな」


裂鬼は容赦なく憐鶴の包帯を外していく。憐鶴は素顔を見られたくないため、ずっと下を向いている。

「それがあんたの抵抗か。無様だね〜」
裂鬼は嘲笑。憐鶴はどうすることも出来ない。裂鬼は精神攻撃を得意とする。


御堂は裂鬼に向けて銃を撃った。裂鬼は音の方向を見る。

「なんだ!?」
「そいつを解放して貰おうか」


裂鬼は白い仮面の女の姿を見た。紀柳院鼎が生きている…?
鼎は鷹稜を構えたが御堂に制止された。

「鼎は戦闘目的じゃねぇだろ。そんな身体で戦ったら危なっかしいったらありゃしない」
「和希…あの鞭をなんとか出来ないか」


鞭…鞭か。


「いちか!」
「はいよー」
「お前の見せ場が来たぞ。ワイヤー使ってあの鞭をぶった切れ!!」

「ラジャー!!燃えてきたーっ!!」
いちかは手首からワイヤーを展開、器用に憐鶴の身体を締め付ける鞭を切りにかかる。


「絃(いと)をナメんなよっ!!」

いちかは鮮やかに鞭をバラバラに切った。着地がヒーロー意識してる。
「きりゅさん、鷹稜使うの今じゃないの!?九十九が反応してる…!」
「いちか、ありがとな」


憐鶴は素顔を見られたくなくて動けないが、九十九は鷹稜に呼応するかのように動いてる。

2つの武器は共鳴、裂鬼に向かい独りでに動き出す。


「九十九も意思があるのか…」
その間に彩音は憐鶴を救護に当たる。


「姫島を呼んで!今すぐ呼んで下さい…」
「到着までかかるみたいなの。お願いだから…顔はみせなくてもいいからこれを被って。
一時しのぎにはなるけど顔は見えないよ」

彩音は大きめのブランケットを渡した。憐鶴は頭から被る。
姫島が来るまでこの姿で待つらしい。


裂鬼は鷹稜と九十九の攻撃に太刀打ち出来ずに一方的に攻撃を受ける。
九十九の攻撃力の高さは主に似たのだろうか…。

やがて裂鬼は猛攻に遭い、大ダメージを受ける。
「んなバカな…。私は負けたくないのに…」


裂鬼はぼろぼろになりながらも異空間に消えた。



異空間では絶鬼が待ち構えていた。

「お前、もういらないわ。炎じゃ可哀想だから、カッチコチに凍らせてやるかな」
「絶鬼様…?」

絶鬼はかなり冷酷。手下だろうが関係ない。彼は裂鬼を氷漬けにした。
「永遠にそのままでいな。気が向いたら粉々にしてやるよ」



鼎は恐る恐る憐鶴に近寄った。


「憐鶴…私はお前に寄り添えるかわからない。だがもう苦しくて見てられないんだ。
…これでも独りがいいのか?この状況でも?協力せねばならない時が来ている…。わかってくれ」


鼎は説得してみるも、憐鶴の氷のような心は閉ざされたままで。

「……紀柳院さんにはわからないですよ」
「つれないやつだな…」