あれから鼎は少しずつ外出出来るまでには回復したが、まだ復帰には至ってない。


そんな中、ゼノクに滞在していたいちかが本部に帰ってきた。

「たいちょー・室長〜、ただいま〜」
「お前は相変わらずマイペースだな…。いちか、ゼノクが大変だったって聞いたよ。どういうことだ」


宇崎がいちかに聞いている。


「きりゅさんがあの配信を見た日、ゼノクではまたあいつらに襲撃されたの。
襲撃は1日だけじゃなくて日を置いて何回もだった…。
憐鶴(れんかく)さんと二階堂さんが連携して、1人はなんとか撃破出来たんですが…、二階堂さんの義手は破壊されちゃったし憐鶴さんは負傷したんす」


憐鶴が負傷!?二階堂の戦闘兼用義手が破壊された!?


「憐鶴達が撃破した相手は少女か!?」
「小学生くらいの女の子だったっす。畝黒(うねぐろ)明莉と名乗っていたような…。
明らかに人間じゃない、不気味だったの…。無表情で機械的な喋り方で、気味悪かった」


「そいつ…どうやって撃破したんだよ、憐鶴と二階堂のやつ。二階堂は義手破壊されるの承知でやったのか…」
「あたしはずっと援護に回っていたっす」


だからいちかは状況がわかっていたのか。



――約1ヶ月前。イーディスが鼎にネット配信で公開処刑をし終えた後、ゼノクでは畝黒明莉が防衛システムを突破し、突如乱入。當麻の姿はなく、明莉単独だった。

この時居合わせたのかいちか・二階堂、そして憐鶴の3人である。
憐鶴は苗代と赤羽に「職員と入居者を避難させて!」と誘導させる。明莉は憐鶴と戦いたくてわざわざ来たらしい。


「黒い仮面のお姉ちゃん、遊ぼうか」

憐鶴は対怪人用鉈・九十九を発動させる。
「あなた、人間じゃないですね。正体を見せなさい!」

「やだ」
明莉の攻撃は以前よりも強力になっている。そこに二階堂が右腕の戦闘兼用義手を展開させ、明莉に銃撃するもいまいち。


「お姉ちゃんのその腕…欲しい」
「これは私にとっては大事なものです!」
二階堂はさらに左脚の戦闘兼用義足も刃を展開させた。彼女からしたら戦闘兼用義肢は大事なものだ。


憐鶴と明莉は拮抗状態になるも、明莉が若干上回る。


なんて力だ…!


二階堂がアシストしたおかげで、憐鶴は明莉の正体を暴く。
「ようやく本性を見せましたね。怪人でもない異形だったとは…」


明莉は正体を暴かれたことで感情を剥き出しにする。

「お姉ちゃん達消えろ!」
「させませんよーっ!」

二階堂は珍しくキレながら攻撃。その瞬間、明莉は二階堂の右腕をものすごい怪力でギリギリと掴む。


「義手のお姉ちゃん、残念だね」
明莉はさらに二階堂の義手を締め付ける。明莉はニヤァと不気味な笑みを浮かべた。

義手は軽くて頑丈なのだが、滅多に壊れない二階堂の義手がミシミシと破壊されてしまう。
「やめて…!」
二階堂は泣きそうな声を出す。

「義手のお姉ちゃん、戦えなくなったね」
そこに憐鶴が。
「二階堂、退避して。ここは私が片付ける」
「ありがとう…ございます」

「いいから逃げて!」
二階堂はふらふらと逃げた。破壊された義手は修復出来るのだろうか…。ダメージはかなり大きい。


「いちか!ワイヤー展開させて!早く!」
「は、はいぃ!!」

いちかはワイヤーを展開、明莉異形態を締め付ける形に。


動きをなんとか封じたか?


「いちかはそのまま!ここは私が倒す!」
「ラジャー」

ラジャーって言ったものの、キツい…!


憐鶴は九十九を最大出力にした。体力の消耗は激しいが、これで一気に叩ければ…!

「憐鶴さん!危ないよ!!」
「やるしかありません。危険は承知の上です」


明莉異形態は九十九を掴むと、いきなり憐鶴をぶん投げた。
憐鶴は思わぬダメージに悶絶する。


「九十九…明莉に雷を浴びせて」
――いいのかよ!全力で行かせてもらうぞ!!

九十九はそう答えた。九十九は明莉の手にある。憐鶴は明莉に攻撃されるのを承知で九十九に最大出力を命じたのだ。
九十九は明莉に強烈な雷撃を浴びせる。そして、九十九は憐鶴のもとに戻る。


明莉はかなりのダメージを受けていたがまだ立ち上がる。

「黒い仮面のお姉ちゃん…許さない」
「あなた『達が』ゼノクを襲撃しなければ、ゼルフェノアを襲撃しなければこんなことにはならなかった…!目的はなんだ!!」


普段は敬語の憐鶴だが、口調がえらい変わっている。

「それはパパに聞いてよ。當麻様に。畝黒當麻にね。黒い仮面のお姉ちゃん、死にたくないなら退避したら?」
「断る」


憐鶴は九十九に纏う雷をさらに増幅させる。


―――憐鶴、お前捨て身でやるのか!?
「そうでもしないと止められません」

――正気か!?


憐鶴は一気に明莉に渾身の一撃を喰らわせた。
明莉異形態は断末魔を上げ、跡形もなく消え去った。

畝黒明莉をなんとか倒したのである。



いちかが駆けつけた。

「憐鶴さん!しっかりして!」
「いちか…ちょっと無茶してしまいました。負傷してしまいましたし。救護隊、呼んで貰えますか?」


なんでそんなに冷静なんだろ…。いちかは二階堂のこともあり、救護隊を呼んだ。


2人とも軽傷だったが、二階堂の右腕の義手は修復出来ないレベルにまで破壊されていた。スペアが待たれるところ。
二階堂は破壊された義手を見て、精神的にかなりやられているという。

憐鶴は多大なる体力の消耗と、九十九を最大出力にしたこと、さらに明莉異形態からのダメージを受けて入院だと言われたようだった。



「――そんなことがあったのか!?憐鶴と二階堂はゼノクでは重要なポジションにいる隊員だ。…憐鶴は隊員とはちょっと違う扱いだが…」
宇崎のリアクションがいちいち激しい。


「その件があってからはゼノクはぱたりと敵が来なくなったっす…。
當麻の動向が不気味だけど、西澤室長から本部に戻れと言われましてですね」


それでいちかは帰ってきてたのか。明莉は撃破されたが、當麻はそれ以上の力を持っているのは明白だ。

當麻とイーディス…いや、六道に動きがないが、なぜ襲撃して来ないんだ!?



鼎は久しぶりに御堂と再会していた。場所はゼルフェノア本部寮(宿舎)の彼女の部屋だ。
彩音と梓は空気を読んで、リビングダイニングから彩音が泊まっている部屋へと移動していた。


「和希…待たせてしまってごめん」
「謝るなよ。俺はお前が回復するのを待ってたから…。外出出来るようになったって?」

「まだ本調子ではないが、外には出られるようになった。
…ところで、和希のシェアハウスに行ってもいいか?車移動ならギリギリ大丈夫だから。まだ人目は怖いけど、和希のシェアハウス住人は平気だよ」

「あのバッシングからよく立ち直ったよなー…」


御堂はさりげなく鼎の手を掴む。こいつ…ずっと耐えてきてたんだ。


そこに空気を読まない梓が登場。


「御堂、あんた自分が悠真に言った言葉…守りなさいよ!『周りが敵だらけになってもお前を守る』ってやつ!
あたしは悠真の幼なじみとして、あんたが守ってやんなきゃ許さないからな!!」


「梓…わかったから…」

「御堂さんごめん。梓は鼎のことを思って言ってるの。口は悪いけど、悪い人じゃないから」
彩音がフォローする。

「わかってんだよ…それくらい」


鼎は不器用そうに御堂の制服にそっと触れた。


「和希…迷惑ばかりかけてすまない」
鼎はうつむいている。顔は大火傷の跡を隠すため、白いベネチアンマスクで見えないが、あの公開処刑以降顔が見えなくても精神的に病んでるなーとは感じてた。

これでも少しずつメンタルは回復してはいるんだ。鼎は…。


「過去は過去だろ!?今を見据えろよ!敵が動いてない今がチャンスなんだぞ!?
鼎は復帰までもう少しだからサポートすっから。
…わかったよ。俺ん家来いよ」


「いいのか!?」
鼎の声が明るくなった。

「逢坂のご飯食べたかったんだ。行くのは今日じゃない。明後日にするから。少しだけ元気出たよ」
「お前、逢坂のメシ好きだもんな〜。明後日ね〜、はいはい」


御堂はだるそうだが、まんざらでもない様子。
数ヶ月ぶりに彼女が家に来るのだから。