どうかきみの骨が欲しい

※会話
※全国観覧後



「ただいまー」
「お帰りなさい兄さん｡皆さんはどうでしたか？」
「準優勝だったよ」
「凄いですねえ!」
「だいぶ悔しそうだったけどな」
「ううん､複雑ですねぇ…お祝いしてあげたかったんですけど､」
「慰労会ってことで盛大にやろうぜ」
「そうですね」
「これ土産な」
「ありがとうございます｡わぁ､はとサブレだ｡僕これ好きです｡それで､どんな試合だったんですか？」
「んー､」
「今お茶入れますね」
「ありがとな｡どんな…か｡瞬間移動したり､ボールを吸い寄せたり､弾き飛ばしたり､悪魔になったり､流血だろ？それからイリュージョンで他人に化けたり花火だったりシンクロしたり五感奪ったり発光したりサイヤ人になったりボールが割れたり…いやースゴかったなテニス｡あんな凄いとは知らなかった」



「…兄さん何を見に行ったんでしたっけ」
「テニスだけど」
「…僕の知ってるテニスと違いますね」
「そうか」
「はい」
「お､弦一郎からメールだ…【勝手に帰るとはたるんどる!】」
「黙って帰ってきちゃったんですか？」
「水をさすのも憚られてな」
「着々とメール受信してますよ」
「【焼肉奢ってください】って精市め…」
「【…ピヨッ】って｡あらら､雅治くん殴られちゃったんですね」
「……よくわかったな」
「出掛けるんですか？」
「呼ばれたからな」
「嬉しいくせに」
「べっつに!」
「お土産はデパ地下のスイーツでお願いしますね｡行ってらっしゃい」
「おう」




「まったく｡素直じゃないんだから…」

※下品
※補足
逆ハー狙いの女の子がチヤホヤされている(ように見える)隊長に嫌がらせ｡








男が好きなら俺達が相手してやるよ､と｡
下卑た笑みを浮かべ己を押さえ付ける幾人かの男子生徒に､少年は呆れを含ませた溜め息を漏らす｡
女子生徒からとおぼしき手紙での呼び出しに応じてみれば､見覚えの無い人影に抑え込まれたと言う訳である｡
早くヤりたいだの写真で脅してだのと宣う相手にもう一度溜め息を吐き､食べられる者として認識されていた少年は小さく身動ぎをした｡


「あ？」


ぱきり､と不穏な音の後､少年を押さえていた不良少年の口から絶叫が迸る｡
涎を滴ながら痛い痛いと足下のコンクリートを転がり回る相手を蹴り止め､少年は妖艶な笑みを唇へと乗せた｡


「てめえらみてぇな不味そうなチンクシャなんざ心底御免だね」


外した肩を踏み台に飛び出し､次々と不良少年を地に沈めていく｡
最後の一人が､腹に撃ち込まれた拳に身体を折って崩れ落ちた｡
気だるげに欠伸をこぼし､動画を撮影していたであろう相手の背へと腰掛けた少年は､不良少年の携帯電話を靴底で叩き割りSDカードを踏み潰す｡
何回か同じ作業を繰り返した後､少年は声にわざとらしくたっぷりと色を乗せた｡


「腹の足しにはならないだろうが摘まみ食いならしてやってもいいぞ｡這いつくばって腰上げな､気が狂うまで犯してやるよ」


なんちゃって｡
情欲に塗れた妖艶な微笑から一転､曇りの無い顔でにっこりと笑んだ少年は､惨状を放置し屋上からの扉を開く｡
早く戻らないと精市の小言を食らうな､と｡
テニスコートへ向かうため階段を降りんとする少年の脚がぴたりと止まった｡


扉の向こうに佇んでいたのは､３強と呼ばれる少年達である｡
神の子と参謀が揃って耳を塞ぎ､皇帝に至っては顔を沸騰させ尻餅をついている次第である｡
なにしてんの､と訝しげに問う少年に､心底疲れたような様子で耳を塞いでいた二人が溜め息を吐いた｡


「…貴方のあの声は思春期盛りの我々にとって耳に毒だ」
「俺たち二人はあの時体験しているからね､不味いと思って耳に蓋をしたけど」
「弦一郎は未経験だったようだな」


お前らは俺をなんだと思ってるんだ､と｡
呆れながら皇帝に差し出した少年の手は､当の皇帝にぱしりと弾かれ宙をさ迷った｡
荒い息を圧し殺し少年を睨み上げる皇帝の目尻が赤く染まり､涙の幕で瞳が潤んでいる｡


「たわけがっ､さわるな…!」
「…もしかして腰砕けたとか？」
「ちちちちちちがう!!断じて違うわ馬鹿者!!」
「恥じることはない弦一郎､これは生理現象だ｡生きている上でこうなることは仕方無いことだ」
「なんたって歩く成人指定の來海さんだから､お前の反応は可笑しくない｡しょうがないよ真田､來海さんなんだから」


妙な慰めを受け悔しそうに「たるんどる」と唸った皇帝の両脇に居る２強の頭をがっちりと掴み､米噛みに青筋を浮かべた少年は己の口へ２強の耳を引き寄せにっこりと邪悪な笑みを作る｡


「×××××××××××」


最後にちゅっとリップ音を響かせ､少年は階下へと姿を消した｡



【駐在任務:番外】
(ほーれチビ共､ドリンクとタオルだぞー)
(俺の!俺の下さい來海さん!!)
(赤也､順番じゃき｡くるみチャン何処行っとったんじゃ)
(呼び出し｡ほれブンちゃん)
(サンキュー､そういや幸村くん達帰ってこねーな)
(トイレだろ)

お前は頭が良いと思っていたんだがな｡
困りきった表情で眼前の少年を見遣った男は､動揺の欠片も出さない涼しげな少年に眉根を寄せた｡


「勝ち目の無い戦いはしない奴だと思っていた…､と貴方は言う」
「…何を好き好んでこんなオッサンに誑かされてんだよ」


床に寝そべる男は､己を押し倒す少年の開いているのか閉じているのか判らない双眸へ怪訝な色を向けた｡

骨張った成長途中の華奢な手が､男の頬骨をじりじりとなぞる｡
吸い付くような肌の質感に､少年は感嘆の息を吐く｡
化石のような存在の男の肌は､少年のそれと遜色しない張りと艶をしている｡


「いたいけな俺を誑し込んだのは､貴方だ」


苦しげな告白と共に降りてきた唇を受け､何がいたいけだ､と｡
男は額を擽る少年の前髪を鬱陶しげに睨んだ｡



【火遊びの代償】
(どちらがどちらにたべられたのか)