そういえば。
小学校の低学年くらいのとき。
あの人たちはよく喧嘩してた。
考えてみれば あの人があたしを産んだのは21歳の時で、たぶん30前だからまだまだ若かったんだよね。
で、大喧嘩をした。
女の人は出ていくと行って荷物を詰め始めた。
あたしは悲しくて行かないでと言った。
女の人は
「あんたなんかお腹の中に戻っちゃえばいいのに!!」
たぶん生まれる前に戻れっていう、そんな意味のことを泣きながら言われた。
あたしは子供ながらに衝撃とショックを受けた。
10年以上経った今でもかなり明確に状況まで覚えてんだから、そうとうショックだったんだろうね。
とにかく胸を締め付けられるような、そんな思いをした。
その一言が今でもあたしを苦しめる。
あたしって生まれてこなければよかったのかな、生まれてきたのは間違いだったのかな、生まれちゃいけなかったのかな。
あたしはあの人たちがどういう経緯で付き合って、結婚したのか知らない。
とにかく、もの凄く反対されてて、あたしができちゃったから しょうがなく承諾されて結婚した。
決して とても祝福された和やかな結婚ではなかった。
でも
「あなたがお腹にいたから結婚できたのよ」
そう言われたときは少し誇らしかった。あたしが父と母を繋ぐ役目をしたんだって。
それと同時に縛る鎖にもなった。
あたしは望まれてこの世にいるのかわからない。
本当は気持ちよくSEXしてたら、たまたまできてしまったから結婚しなきゃいけなくなったのかもしれない。
「うちはお見合い結婚でさぁー」
思春期になると親の恋愛にも興味があるわけで。
みんなはいろいろ言ってたけど、あたしはなんとなく聞くに聞けなかった。
付き合ってるころの話はポロポロ聞いた。
遠距離恋愛で、バイクでツーリングしたりとか…
できるだけ子供っぽく聞いた。
どうやって知り合ったの?
あの人はどうやってはぐらかしたっけ?
結局知ることはなかった。
あたしは来年には成人式で。
女の人は未だにモバゲーとか出会い系とかで遊んでる人で、自分が若くて可愛いことに自惚れてるけど、それなりに苦労もしてきた人で。
男の人は暖かい家庭とバイクに夢見る少年みたいな人で、でも熟女とか人妻とかのエロサイトブックマークしてるようなやっぱ普通の男で。
やっぱ人間てそんなもんだって、わかるようになった。
完璧で綺麗な人なんていない。
でもさ、あの人たちには足りないものがあったのも、親としての役目を果たせなかったのも事実だ。
あたしはどうしても 家という場所が怖いし、家族っていう環境が窮屈で居場所が見つけられない。
抜け出したくてたまらなかった。
いい娘を演じるのも疲れた。
十分とは言えないけれど、世間さまには娘だと言える娘ではいたでしょう?
近所の人には挨拶し、家では手伝いをし、絵を描いては賞をもらい、学級委員をした。
運動はできなかったけど、中学ではテニス部で部活をし、駅伝の選手にもなった。成績は中の上。
高校はちょっと反抗期で先生とも喧嘩したりバイト見つかって呼び出しくらったけど、勉強はそこそこやって、一応国立大にも受かった。
平凡だけどなかなか普通のいい娘さんでしょう?
でも、もう疲れたんだよ。
あたしはもっと悪ガキやって、騒いで、遊んで、反抗して、喧嘩して、仲良くなって、笑って、笑ってたかった。
あたしはいつも寂しかったよ。